高価なプロ用DJ Mixerに装備されてることが多くなってきた(ハイパス&ローパス)フィルター。Traktorの内部ミキサーにも標準装備されています。しかも3種類選択が可能。これ、すごく使い出がある機能。
今回はそのTraktorのフィルターについての解説記事。
ちなみにTraktorのEQに関しては一つ前に詳しく書きました。参考にしてください。
Traktorのフィルターの主な用途
リアルミキサーでもDJM-900や850、アレン&ヒースのXONE:92などの高級機には装備されるようになってきたハイパス+ローパス・フィルター(※1)。もちろんTraktorの内部ミキサーには標準で装備されています。昨今のDJプレイでは欠かせないとても便利な機能です。
フィルターの用途は主に2つ
1 . 曲の味付けで使用(FX的な使い方)
2 . 曲同士をミックスするときにEQの代わりに使ったり、EQと合わせて補助的に使用する
(※1)
ハイパス・フィルター :
HI(高音域)をPASSし(通し)て、LOW(低音域)をカットするフィルター。
ローパス・フィルター :
LOW(低音域)をPASSし(通し)て、HI(高音域)をカットするフィルター。
1 . 曲の味付けで使用(FX的な使い方)
EDMやトランスなどの派手め演出が好まれそうなジャンルなら、曲の展開にメリハリ出せるTraktorに標準装備されているフィルターが重宝します。
特にその中でもLadderフィルターは、FX的な味付けが得意なフィルターです。
派手めなハイパス+ローパスフィルターが設定されているLadderフィルターは、音に(FX効果的な)「シュワシュワ」感を出したい時なんかに使うとすごく気持ちが良い。
Traktorに沢山用意されている複雑なFX機能群を使い慣れていない方は、まずはこのシンプルなLadderフィルターを使って、音の味付けをしていくのも良い方法でしょう。
Laddrフィルターは、Traktor製作チームによって最初から使いやすいパラメーターが設定されているデフォルトの万能フィルターなので、出音の破綻が起きにくいのが大きな利点です。
とはいえ、Traktorには相当な数のFXが別途用意されているので、それらを使いこなせる方なら、曲の味付けにはそれらのFXを優先的に使用したほうが(自分でパラメーターをいじれるので)、自分好みの結果が得やすいでしょう。
個人的には、一本しかなく、EQの間近に位置し、操作がしやすいフィルター・ノブを、味付けメインに用いるより、(この後に説明する)ミックス時の操作用に特化させた方が使い所があると感じています。
2 . 曲同士をミックスするときにEQの代わり、または補助として使う
曲同士のミックスを行うときは、EQやボリューム・フェーダー(ときにはクロスフェーダー)を使用するのが基本ですが(※2)、
昨今はフィルターをメインで使った方が、より自然なミックスがしやすいと考えるDJも多いようです。
いや、「しやすい」というより、「楽」と言ったほうが適切かもしれません。
例えば、ハイパス・フィルターのノブを徐々に傾けていくと、
普段、DJがミックス時にEQのHI、MID、LOW(高音、中音、低音)の3本分のノブを手動で操る時のような出音を、このフィルターノブ一本の開け閉め(強弱)で再現してくれます。
そうです。実は、フィルター・ノブ一本でEQ3本分の大まかな操作が可能なのです。
しかし、ミックスにフィルター・ノブだけを使う方法だと、出来上がるミックスは大ざっぱになりがちです。
そんな時は、別途、EQで微調整していくようにします。
この方法だと、DJプレイ時のミックスの負担を軽減させる(仕事量を減らすこと)ができます。
(※2)DJ ミックスと言うと、クロスフェーダーを左右に動かして音を混ぜる方法が一般的だと思われがちですが、
ハウスやテクノなどのいわゆる「4つ打ち系」の曲のDJミックスでは、クロスフェーダーをメインで使うより、主に、EQ、フィルター、ボリュームフェダーの3つを使う方法の方がメジャーです。
特に、最近ハウス系DJの間で人気のロータリーミキサーは、 クロスフェーダーを装備していないモノの方が一般的です。
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異なる個性の3つのフィルター
フィルターやEQのパラメーター(
順にその特徴を紹介していきます。
Traktorの3つのフィルター
- Ladder
- Xone
- Z
Traktorのフィルター・セクションの開き方
Traktorの設定を開いて、Mixerをクリック。
下の画像の1番がEQの選択。2番でフィルターの選択ができる。
1. Ladderフィルター
端的に言うと、EDM、トランス系と相性の良いフィルター。
このフィルターの特徴は、
私のようなハウス系の音源を扱う者にとっては、このフィルターを(EQの代わりに)ミックス用途で用いるには、ちょっとレゾナンスが荒々しすぎる。
しかしながら、EDMやトランス系のDJならEQ的な用途にも十分フィトすると思います。
なぜなら、これくらい派手めなレゾナンスが効いていても、音数の多いEDMなどの楽曲ならミックス時に曲同士が馴染みやすいので。
もう二、三、Ladderの特徴を挙げていくと、、
加えて、、
(後述する)Zフィルターのレゾナンスも、同じくハイパスフィルターを右側に目一杯振り切った時に、HI(高音帯域)の音が残りやすいのはこのLadderと同じです。
しかし、LadderはZフィルターと違い、そのHIの音質がかなり変化する。
ハイパスを効かせたときでも、HIの音があまり変化しないZフィルターとは対照的。
また、
Ladderフィルターをミックス用途で(EQ的に)使用した場合に注意すべきことは、
曲同士が重なるとき、低音が過剰に出てしまい、マスター出力の音量がオバーぎみなりやすい
ということ。
この低音が過剰になるのを避ける方法は主に2つあります。
フィルター使用時に音量が過多になるのを避ける方法
1 . Mixerのヘッドルームに余裕を持たせる
2 . AとB、両方の曲の低音が合わさり、メイン出力の音量が出すぎてしまわないように、A,B両方のハイパスフィルターのメモリの加減に注意する
1. について
ヘッドルームについては、詳しい解説記事を別途書いたので、こちらを参考にしてください。
2. の方法について
ハイパスフィルターの操作時の注意点については、別途詳しい記事を書いたのでこちらを参考にしてください。
Ladderフィルターはレゾナンスが派手めなので、渋めな展開が多い現代的なDeep Houseとは好相性と言い難い。逆にEDMやトランスなどの起伏の激しい曲とは相性が良い。
Deep Houseをプレイする私としては、EQを使ってきっちりとミックスしつつ、このフィルターはエフェクトとして使うなら、中々楽しいフィルターだと思います。
一方、EDMやトランスなどの派手めな曲調なら、レゾナンスが強いこのフィルターでもEQ的なミックス用途としての使用も可能でしょう。
だだし(繰り返しになりますが)、(他の2つのフィルターと比べて)曲同士を重ねたときに音量が上がりやすいので、その点は注意が必要です。
2. Xoneフィルター
Xoneは名前の通りアレン&ヒースのXoneミキサーのフィルターを模倣したフィルター。完璧な模倣にはなっていないとの批判もよく聞きますが、これ単体としてみれば中々よくできたフィルターだと感じさせます。
Xoneフィルターは、Ladderとはある意味正反対な性格。
Ladderと比べるとレゾナンスが非常に乏しいので、FX的な音の味付けとして使うには力不足な感があります。
Xoneフィルターは(EQ的に)ミックス時に使うのに重宝するフィルター
フィルターノブの右半分側であるハイパス・フィルターのノブを時計回りに倒していくと、高音、中音、低音共にバランス良く音がまろやかに傾斜していく。
EQ的にミックス時に使うには使いやすいフィルターでしょう。
しかし、Xoneフィルターは一部のTraktorユーザーからは不評を買っています。
フィルターノブの右半分側であるハイパス・フィルターを65%くらい(時計の針で3時くらい)まで倒していくと、その後の音の切れ具合がかなり急勾配になる。
その急勾配のせいで、音が急に消滅傾向に入ってしまうことが不評の理由です。
音が急に「ストンッ」と落ちる感じ。
この音の「急な消滅」傾向は、ミックス時の「自然な曲同士の移行」の妨げになるケースが多い。
Ladder や(後述する)Zフィルターの場合は、ハイパスフィルターのノブを(右側に)めいっぱいのメモリ100%(時計の針で5時位)まで倒しても、(レゾナンス効果で)音の余韻が残る。
そのあとは、ボリューム・フェーダーやEQで残った余韻を細かくコントロールして行けばよいので、自然な曲間の変遷を演出しやすい。
方や、このXoneフィルターは、100%まで倒すとレゾナンスが残らない場合がよくりあます。
特に、音数の比較的多いEDMやトランスなどの派手めなジャンルだと、この音の「急な消滅」傾向は致命傷になりかねない。
この音の「急な消滅」傾向への対処法としては、ハイパス・フィルターの使用を45度あたりまでの傾きで抑えつつ、その後の音の処理は、EQを併用して対処する方法が良いでしょう。
ただしすべての曲が、音の「急な消滅」傾向になるというわけでもありません。
曲によってはハイパス・フィルターノブを、100%まで倒してしまっても綺麗にミックスを完了できる場合もあります。
この辺は曲ごとに臨機応変に対応していく必要があると思います。
このXoneフィルターには前述のような多少の欠点はあるのですが、個人的には、ハウス系との相性は比較的良いフィルターだと感じています。
3. Zフィルター
ZフィルターはTraktorに後から追加された比較的新しいフィルター。これは、TraktorのKontrol Z2のミキサーのフィルターと同一のも。
このZフィルター、後発なだけありTraktorユーザーの要望をかなり取り入れたフィルターになっています。
・Ladderフィルターのレゾナンスの量が多すぎて使いづらいといった声
・Xoneフィルターのハイパス・フィルター使用時の音の「急な消滅」の傾向(レゾナンスの著しい欠乏)の改善要求
この2つの「ユーザーからの要求」へのNative Instuments社の答えが、Zフィルターだと言えるでしょう。
Ladderほどはレゾナンスが効いてはいないが、100%までハイパスフィルターを振り切っても、高音域が残りやすい設計。
しかし、LaaderフィルターのようなレゾナンスによるHIの音の変質はそこまで強くない。Ladderの半分くらいのレゾナンスな印象。
また、このZフィルターで特徴的なのが、ノブの位置が(時計の針の位置で例えた場合)1時のあたりでも、XoneやLadder比べ、LOWの音が抑制されていること。
しっかり12時にノブを戻さない限り、(12時間近でも、)LOWが最高でも70%も出切らない感じ。
これは、1時から12時までの狭い範囲で、LOWの音量の傾斜が急なことを意味します。
上記のような特性があるため、このZフィルターは、2つの曲を重ねたとき、低音が出にくくなります。
したがって、結果的にマスター音量が上がり過ぎるのを避けやすいという効果がある。
また、逆の効果として、低音域がしっかり出るフィルターのメモリ範囲がとても狭いので、低音不足に容易に陥りやすくなる。
もう少しわかりやすく言うと、
通常、ハイパスフィルターで2つ以上の曲を混ぜ合わせると、複数のLOW(低音)同士の重なりで、全体(マスター)の音量が過剰になりやすくなる。(特にLadderフィルター使用時の場合)
DJは、常にマスター音量がレッドゾーンに達しない(過剰にならない)ように注意して操作する必要があるのは先に述べました。
それと同時に、逆方向の懸念にも注意しなければなりません。
その逆方向の懸念とは、
ハイパスフィルター使用時には、ノブの操作次第で低音不足に陥りマスター出力の音量も不足しやすくなる。マスター出力が不足すると、音の迫力が著しく低下してしまう。
このZフィルターは、LadderやXoneと比べて、LOWが目一杯に出るノブのメモリの範囲が非常に狭いので、(複数の曲の低音同士の音の重なりで、)マスター音量が過剰になるのを避けやすい設計になっている。
この設計は、精緻なミキシングを目指す時には、低音の出過ぎがコントロールがしやすくなり、使いやすい。
しかし一方で、ノブの操作を少しでも誤まると出音に大きな影響を与えてしまう。全く誤魔化しのきかないシビアなフィルターと言えるでしょう。
(繰り返しになりますが)「出音の影響とは何か?」と言うと、
”(Zフィルターでは、)ノブのちょっとした操作ミスで、(特に低音域の)音量が簡単に不足し、メイン出力音量が迫力不足陥ってしまう”
ということです。
Laddr やXoneフィルターでは、複数の曲を重ねる時、Zフィルターとは逆に低音過多になる傾向がありますが、
(優秀なTraktorの)リミッター機能をオンにしておけば、若干の音量過多くらいならごまかしが効いてしまう。
(大雑把な操作でも、Zフィルターよりは出音への影響が少ないということです。)
結論
とてもまわりくどい説明になってしまいましたが、ここで話をまとめると、
「操作ミスで、音量が出すぎた場合はリミッター機能でなんとかなる場合が多いが、
逆に操作ミスで、音量が小さくなりすぎた場合はそれを補う機能はないので、出音にダイレクトに影響してしまう」
ということです。
Zフィルターは、注意深い操作ができる慣れた方が(完璧を期して)使うには良いフィルターですが、初心者にとっては使い慣れるまでに時間が必要かもしれません。
しかし使いこなせれば、クリーンなDJミックスを実現しやすくなる。
このZフィルターこそ、どのジャンルにも対応力がある万能フィルターと言えるでしょう。
私の個人的なフィルター選択のオススメを挙げておくと・・
• EDMやトランスなどの音数の多い派手めなジャンルなら「Ladderフィルター」
• ハウスやDeep Houseなどの渋目の曲のミックスがメインなら「Xoneフィルター」
が使いやすいと思います。
また、「Zフィルター」は、
先に述べた通り、派手めな曲でも地味めな曲でも、どちらにも合わせられる優秀なフルターですが、ノブを少し動かしただけで大きく低音域のレベルが変わる範囲があるので、操作には細心の注意が要求されます。
色々なジャンルをDJされる方や、細やかな操作で綺麗なMIXを心がけたい方は、このZフィルターを使いこなせるように頑張ることをオススメします。
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「ヘッドルーム」についての解説です。